地震の発生から数日が経っても、余震が続くと「なかなか眠れない」「身体の緊張が抜けない」と感じる方は少なくありません。片付けや避難生活が落ち着いてきたように見えても、心と身体はまだ休まる状態にないことがあります。
今回は、そうした「眠れない」「疲れが取れない」「食欲が湧かない」といった状態に対して、管理栄養士の視点から、無理のない食事と生活の整え方をお伝えします。
はじめに知っておいていただきたいこと
食事だけで不眠や疲労のすべてを解決できるわけではありません。
それでも、食事や生活リズムを少し整えることで、身体への負担を軽くすることはできます。無理に「早く元気にならなければ」と思わず、できる範囲から始めていただければと思います。
1.眠れない、疲れが抜けないのは珍しいことではない
余震が続く状況で、なかなか寝つけない、小さな音で目が覚める、常に身体に力が入っている、といった状態が続くことがあります。これは、意志が弱いからでも、特別なことでもありません。危険から身を守ろうとする身体の自然な防衛反応として、こうした緊張状態が起こります。
食欲が湧かないことについても同じです。強い緊張が続くと、消化のはたらきが落ち着きにくくなり、「食べたいと思えない」状態になりやすくなります。今、眠れないことや十分に食べられないことに対して、ご自身を責める必要はありません。
一方で、こうした状態があまりに長く続く場合や、日中の生活に大きな支障が出ている場合は、後述する専門機関への相談も選択肢に入れていただきたいと思います。
「眠れない」「疲れが抜けない」という悩みは、実は思っている以上に多くの方が抱えています。被害が大きかった地域だけの話ではありません。余震は熊本県全域で起きているため、直接的な被害を受けていない方も、知らず知らずのうちに緊張や不安を抱え、心身にダメージを受けていることがあります。見落とされがちなこの部分にこそ、今、目を向けていただきたいと思います。
管理栄養士・中村逹也
2.食欲がないときは、三食を完璧にそろえなくてよい
「1日3食、しっかり食べなければ」と考えると、かえって負担になることがあります。食べられないときは、一度に量を摂ろうとせず、少しずつ、回数を分けて摂る形で十分です。
喉を通りやすく、身体に負担の少ない食品としては、次のようなものがあります。
- 豆腐、温泉卵、ヨーグルト、チーズ
- ツナ缶、さば水煮缶などの缶詰
- バナナ、栄養補助のゼリー飲料
- お粥やおじやなど、温かく水分を含む主食
冷たいおにぎりやパサついたパンは喉を通りにくいことがあります。
袋のまま湯煎で温めたり、汁物やスープに浸したりすると、食べやすさが変わることがあります。
持病がある方への配慮
- 糖尿病のある方:菓子パンや清涼飲料水のとりすぎに注意し、缶詰の魚や大豆製品、卵などを組み合わせる
- 高血圧・心疾患のある方:おにぎりやカップ麺の塩分に注意し、スープは残す・薄めるなどの工夫をする
- 腎臓病(透析中を含む)のある方:水分・たんぱく質・カリウムなどの制限について、早めに医療者や支援窓口に相談する
- 食物アレルギーのある方:原材料表示を確認し、成分が分からない調理済みの配給品は避ける
持病のある方は、体調の変化を感じたら早めに医療機関や避難所の救護所に相談することをおすすめします。
3.水分不足が疲労感を強めることもある
「喉が渇いた」と感じにくくなっている状態でも、身体の水分は少しずつ失われていきます。水分がわずかに不足するだけでも、強い疲労感、頭痛、めまい、集中しにくさにつながることがあります。
避難生活では、トイレの利用を控えたい、水の確保が大変、といった理由から、気づかないうちに水分摂取が減りやすくなります。今の時期は熱中症への注意も重なるため、喉の渇きだけを基準にせず、こまめに水分を摂ることを意識していただきたいところです。
| 飲料 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| 水・麦茶などカフェインを含まないお茶 | 日常的な水分補給 | 常温の方が身体への負担が少ない |
| スープ・汁物 | 食事と一緒の水分・塩分補給 | 喉の渇きを感じにくい方にも摂りやすい |
| スポーツドリンク | 汗をかいたときの電解質補給 | 糖分が多いため飲みすぎに注意 |
| 経口補水液 | 発熱・下痢・嘔吐など明らかな脱水時 | 日常的な飲み物としての使用は避ける |
心不全や腎臓病などで水分制限がある方は、一般的な「たくさん水分を」という呼びかけをそのまま当てはめず、主治医からの指示を優先してください。
4.夕方以降のカフェインと寝酒に注意する
片付けや慣れない環境での疲れを紛らわそうと、コーヒーやエナジードリンクの量が増えることがあります。
ですが、カフェインの覚醒作用は数時間続くため、夕方以降に摂ると夜の眠りを妨げやすくなります。目安として、就寝予定時刻の6〜8時間前からは控えるとよいでしょう。
| 飲料(100mLあたりの目安) | カフェイン量 | 備考 |
|---|---|---|
| レギュラーコーヒー | 約60mg | 夕方以降は控えめに |
| 玉露 | 約160mg | 緑茶の中でも高濃度、夜間は避ける |
| 煎茶・紅茶 | 約20mg | 夕方以降はカフェインレスがおすすめ |
| エナジードリンク | 製品全量で高め | 糖分も多く血糖の変動にも注意 |
| 麦茶・十六茶など | 0mg | 夕方・夜の水分補給に適する |
また、「寝酒」は一時的に寝つきをよくするように感じられますが、眠りの後半で目が覚めやすくなり、かえって睡眠の質を下げてしまいます。避難生活でのアルコールは、脱水や夜間の転倒、服用中の薬との飲み合わせの面でもリスクが高まるため、控えめにしていただきたいところです。
5.朝食と朝の光で、生活の区切りを作る
昼夜の境界が曖昧になりやすい状況では、生活リズムが崩れやすくなります。無理に元の生活に完全に戻そうとする必要はありませんが、「朝に何か口にする」「朝の光を浴びる」という小さな行動が、身体のリズムを整える助けになります。
食欲がなければ、牛乳を一杯、スープを一口、パンを少しだけ、という形でもかまいません。少量でも口にすることと、朝に日光を浴びることを合わせると、体内のリズムが整いやすくなります。
今日から試せる小さな工夫
- 起きたら数分でも外の光を浴びる、または明るい窓際に移動する
- 就寝前の30分〜1時間は、ショッキングなニュースやSNSから離れる
- 4秒吸って4秒止め、4秒吐いて4秒止める呼吸を数回繰り返す
- 「靴の位置」「懐中電灯の位置」を確認してから休むと、安心感につながることがある
6.食事だけで何とかしようとしない
ここまでお伝えしてきた工夫は、あくまで身体の負担を少し軽くするためのものです。食事や生活の整え方だけで、強い不眠や不安のすべてを解消できるわけではありません。
次のような状態が続く場合は、一人や家族だけで抱え込まず、専門の窓口に相談していただきたいと思います。
- 深刻な不眠や強い緊張感が、数週間を超えて続いている、あるいは悪化している
- 水分や食事をほとんど受けつけず、体重減少や脱水の様子がみられる
- 強いフラッシュバックや、現実感が薄れるような感覚が続いている
- アルコールや薬の量が、自分でも制御できないほど増えている
- 高齢の方の急な混乱や、お子さんの著しい落ち着きのなさが続いている
ここに挙げたのは、あくまで目安の一例です。「これほどではないから相談するまでもない」と我慢する必要はありません。被害の大小に関わらず、しんどさを感じたら、その時点で相談していただいて大丈夫です。
迷ったときは、お住まいの相談窓口やかかりつけの医療機関に聞いてみてください。服薬中の方は、お薬手帳がなくても医師や薬剤師に相談すれば大丈夫です。
まとめ
余震が続く中で「眠れない」「疲れが抜けない」と感じることは、身体を守ろうとする自然な反応です。完璧な食事や睡眠を目指す必要はなく、少量でも口にすること、こまめに水分を摂ること、夕方以降のカフェインや寝酒を控えること、朝の光と一口の食事で生活に区切りをつけることなど、できる範囲の小さな工夫を積み重ねていただければと思います。そして、つらさが長引く場合は、一人で抱え込まず、専門の相談窓口を頼っていただきたいと思います。
GROW編集部として、このテーマを扱う理由
地震から時間が経つにつれて、水や食料、住まいといった目に見える課題は少しずつ落ち着いていく一方で、「眠れない」「疲れが抜けない」「食欲がわかない」といった、本人も「こんな状況だから仕方ない」と我慢しやすい困りごとは、表に出にくいまま残り続けることがあります。GROW編集部では、こうした見過ごされやすい心身の負担に、専門家の知見をもとに丁寧に光を当てていきたいと考えています。
執筆者について
管理栄養士・GROW編集部 中村逹也
管理栄養士として食と健康に関する知識を持ちながら、GROWでは人の想いや専門性を言葉にする編集活動を行う。熊本在住。専門家や事業者の知見を、読者に届く記事として残していくことを大切にしている。
