インタビュー中部医療地域看護

「ネガティブ、いいよ」。看護師が8年の病院勤務を経て気づいた、本当のウェルネスの形【看護師・ウェルネスデザイナー 杜伊寿 知恵】

インタビュー

この記事の見どころ

⭐️コロナ病棟での限界経験が、転換点になった

  • 2020年からのコロナ禍、防護服を一日10時間着続けながら重症感染者の看護にあたった。心身ともに限界を迎えながらも働き続ける中で、同僚たちもギリギリの状態にあることを痛感。「ケアする側が整っていないと、看護は成り立たない」その気づきが、看護師をケアする看護師への転身を決意させた。

⭐️ 「ネガティブ、いいよ」善悪で感情を裁かないアプローチ

  • ネガティブな気持ちをポジティブに変えようとすると、「ネガティブになった自分」をさらに責めるループに陥ると言う。大切なのは感情の善悪を手放すこと。「栄養が足りないだけかもしれない、ホルモンバランスかもしれない」と原因を外に置いてあげることで、人は初めて前に進める。心理と栄養・生活習慣を掛け合わせた独自の視点が、このアプローチを支えている。

⭐️ 介入した年の看護師離職率がゼロに

  • 病院勤務をしながら、心理師の資格を取得。新人・若手看護師への心理教育やカウンセリングを院内で行ったところ、その年の離職率がゼロになった。仕事の大変さは何も変わっていないのに。その事実が、メンタルケアの持つ力を確信させ、独立へと背中を押した。

⭐️ 毎年棺桶に入る。死を考えることで、生き方が変わった

  • 広島県福山市の棺桶メーカー「共栄」に毎年訪れ、棺桶に入るという習慣を2年前から続けている。自分で書いた弔辞を参加者に読んでもらい、真っ暗な棺の中で自分の本音と向き合う体験が、価値観を変え、環境も人間関係も仕事も変えていった。「死を考えることで、どう生きるかが見えてくる」という死生観が、彼女の活動の根底にある。

⭐️ 「医療業界を変えないと、日本の医療は終わる」

  • 現場を知るからこその危機感 看護職・医療職を目指す若者が減り続けている現状に、本気の危機感を持つ。組織と敵対するのではなく「一緒に考えられる存在」として病院の中に入り込み、メンタルサポートを届けることを目指している。現場で働く医療職の方々のニーズは確かにある。諦めずにアプローチし続けることが、今の使命だと語る

Interview

「ネガティブな気持ちは、その方自身の気持ち。いいよ、って受け入れるところから始めます」そう語るのは、看護師・ウェルネスデザイナーとして活躍する杜伊寿 知恵(といす  ちえ)さんです。宮城県仙台市にルーツを持ち、2017年から病院で看護師として勤務。コロナ病棟での過酷な経験と、適応障害を2度経験したご自身の歩みを経て、「患者さんではなく、看護師をケアする看護師になりたい」という思いにたどり着きました。現在は、渉央さんとともに「aotoisu」として、心・体・キャリアの8領域から包括的なウェルネス支援を届けています。毎年棺桶に入り、死と向き合うことで生き方を問い直し続ける杜伊寿さんにインタビューしました!

中村

現在どのような活動をされているか教えてください

杜伊寿さん

渉央さんと二人で「aotoisu」という団体で、健康事業をメインにやっています。
コンセプトは「本来の力で、人生を選ぶ」というところで、心と体の健康の土台から、自分の人生の選択に納得できる状態へというところを目指しています。

私たちが大切にしているのは「ウェルネス」というキーワードで、単に病気じゃない状態ではなく、よりよく生きていくことに対して主体的である状態のことです。その視点から、社会的なつながりや人間関係、仕事・キャリア、生活環境、精神性、知性など8領域を包括的にサポートしています。

具体的には、個人向けの伴走プログラム「土台プログラム」(4ヶ月)を提供していて、体質改善とコーチング・カウンセリングを組み合わせた完全オーダーメイドで進めています。クライアントは20代から70代まで幅広く、7割ほどが看護師やリハビリ職などの医療従事者の方です。また、法人向けの健康経営研修にも入らせていただいていて、管理職の方のメンタルサポートにも携わっています。

中村

看護師を目指したきっかけを教えてください。

杜伊寿さん

 中学生のころ、両親に「手に職があるといい」と言われて、薬剤師か看護師はどうかと提案されたのが最初のきっかけです。
当時は看護師の仕事もよくわからなかったんですが、病院の看護師体験に自分で申し込んで行ってみて。
ドクターよりも患者さんの近くにいて、献身的にサポートしている姿に心惹かれるものがあって、「人と関わる仕事がしたい」という思いとも重なり、中学3年生のときに目指すと決めました。

その後、高校1年生のときに宮城県で東日本大震災を経験しました。ライフラインが10日間止まり、友人の家族が亡くなったり、家がなくなったりする現実を目の当たりにして。
自分は学生で何もできなかったという強いもどかしさを感じ、医療職として貢献できる自分になりたいという気持ちが更に強くなりました。

中村

これまでのキャリアを教えてください。

杜伊寿さん

 2017年から病院で看護師として働き始めました。
2020年からはコロナ病棟での重症感染者の看護を担当することになって、防護服を一日10時間着て働くような日々が続きました。自分自身も疲弊しながら、それでも病院が回らないからと一生懸命やっていて。
そのころ、一緒に働く同僚たちも心身ギリギリの状態で働いていることをひしひしと感じていました。また同じ時期に、家族が体調を崩してしまって、看護師として働きながらその支えもしていく中で、自分自身も仕事を続けられなくなってしまった時期がありました。

そこでキャリアコーチングを外部で受けたんです。「本当に役に立ちたい人は誰か」と向き合ったとき、ずっと気になり続けてきたのは、一緒に働く看護師たちだったとわかって。
看護師が整っていないと、看護は成り立たない。なら「看護師に対してケアをしていく看護師になりたい」と思ったのが、今の活動の出発点です。
そこから心理師の民間資格を取得して、病院内で新人・若手看護師への心理教育やカウンセリングを1年ほど行いました。その年の離職率がゼロになったことが、メンタルケアの可能性をさらに確信させてくれて、一昨年の夏に独立しました。

中村

メンタルケアに関わる上で大切にしていることを教えてください。

杜伊寿さん

まず大前提は、自分自身が整っていることです。自分の中に解決できていない課題や見て見ぬふりをしている問題があると、クライアントさんと話す中でそれを投影してしまう。フラットなコミュニケーションができなくなるので、自分自身を常に見つめることは欠かせません。

相手と関わる中で大切にしているのは、事実と解釈を分けて整理してあげることです。
そしてもう一つ、ネガティブを否定しないこと。
ネガティブをポジティブに変えようとするのは、目の前のリンゴをバナナにしてと言っているようなもので、無理なんですよ。ネガティブになった自分をまたダメだと責めてしまって、無限ループになる。
だからまず「ネガティブ、いいよ」から始めます。
そのうえで、その感情が湧き起こっている要因を一緒に見ていく。過去の経験かもしれないし、ホルモンバランスかもしれない。タンパク質が足りないだけかもしれないし、鉄が足りないだけかもしれない。
原因を外に置けると、「じゃあこの課題にどう向き合うか」という共通のアクションが見えてくる。そこがすごくシンプルになるんですよね。

中村

価値観が大きく変わった経験を教えてください。

杜伊寿さん

2年前から、毎年棺桶に入るという習慣を始めました。広島県福山市にある棺桶メーカー「共栄」さんに行って、棺桶に入るツアーに参加しているんです。
看護師として人の生死に日常的に関わってきたのに、自分自身の死生観や人生の終わりについては、あまり向き合えていないなと感じていて。

棺桶の中では真っ暗で、自分で書いた弔辞を一緒に参加した方に読んでもらうワークもあって。
最初に入ったとき、「全然自分の本音を無視してた」ということがはっきりわかりました。もっと自分の心に素直に生きていかないといけないというメッセージが、自分の中から湧き上がってきて。

その体験以降、環境も、一緒にいる人も、仕事も、自己表現の仕方も、変わっていきました。死を考えることで、どう生きるかが見えてくる。それが今も毎年続けている理由です。

中村

活動を通じてどんな変化を生み出したいですか?

杜伊寿さん

医療業界を変えていきたいというのが、原点にある思いです。今、看護職や医療職を目指す若者が減り続けていて、このままでは日本の医療は本当に危うくなると感じています。
SNSで看護師の辛さが可視化され、ネガティブなイメージが先行していく中で、業界がその現実に向き合えていない部分もある。

私がしたいのは、組織と敵対することではなく、一緒に考えられる存在になること。看護部長さんたちと話すと、ニーズは確かにあります。
ただ、組織全体でイエスが出るまでには壁がある。それでも諦めずにアプローチし続けていきたいと思っています。
「人が生きてから死ぬまでの間に、医療に関わらない人は一人もいない」。だからこそ、日本の医療がちゃんと続いていける状態にしていくことが、私のビジョンです。

中村

これから挑戦したいことを教えてください。

杜伊寿さん

大きな夢を掲げるというよりも、目の前のことを誠実に一生懸命やり続けることが自分のスタイルです。その延長線上で、去年から病院や医療機関に対して、研修やメンタルサポートの形で入っていくアプローチを始めています。

また、aotoisuのメンバー養成講座も運営していて、一緒に活動してくれる仲間が少しずつ増えています。医療職としてのバックグラウンドを持ちながら、地域おこしや講演活動、訪問同行サービスなど多様な形で活動している方たちと一緒に、より幅広いウェルネス支援を届けていけたらと思っています。

中村

最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

杜伊寿さん

人のために貢献したいと思って活動されている方が多いと思うんですけれども、まずは自分自身を満たすことがすごく大切だと思っています。
今日朝起きられて、また人と関われる状態でいてくれている自分の心と体に、「ありがとう」と言ってあげてほしいです。

自分が整っていないと、どれだけ素晴らしい活動でも長く届け続けることはできないから。
まずは自分を大切に。そのきっかけや、具体的にどうすればいいかを一緒に考えたいという方がいれば、ぜひ一度お話しできたら嬉しいです。

杜伊寿 知恵さん、インタビューにお答えいただきありがとうございました!
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