インタビューリハビリ九州・沖縄医療

困ったらすぐ相談できる社会へ。熊本発、ことばの相談室インディーが目指す、早期支援の当たり前【ことばの相談室インディー 代表 上野 和博】

インタビュー

この記事の見どころ

⭐️「様子を見ましょう」をなくしたい。独立を決めた言語聴覚士の原点

  • 3歳児・5歳児健診で「様子を見ましょう」と言われ続けるお子さんたちを見てきた上野さんが、「できることから始めよう」に変えていきたいという強い思いで独立。待機ではなくすぐ動ける体制を自らが作ることにした。

⭐️ 日本とアメリカで逆転している、言語聴覚士の役割

  • 日本では高齢者の嚥下支援が中心だが、アメリカでは子どもの言語支援が優先されている。この逆転を知ることで、日本の子どもたちがいかに支援を受けにくい状況に置かれているかが見えてくる。

⭐️ 医師の紹介も診断も不要「気軽に相談できる場所」という革新

  • 病院での支援は社会保障制度に守られている一方で、待機が長く、敷居も高い。自費でありながら「まず気軽に相談できる」という形を作ることで、必要な人に必要なタイミングで届けられるようになった。

⭐️ ST業界の枠を超えた学びが、独立という選択を生んだ

  • STとしての専門スキルだけでなく、医療外のコミュニティや自己啓発セミナーへの参加が視野を広げた。「STのことだけ考えていたら独立もしていなかった」という言葉が、専門職の新しい働き方を示している。

⭐️ 書道の先生とのコラボ、保護者向けセミナー広がる支援のカタチ

  • 月1回の保護者向けセミナーをすでにスタート。字を書くのが苦手なお子さんには書道の先生とコラボするなど、STの枠を超えた多職種連携の支援を構想・実践している。

Interview

「様子を見る前に、まずお気軽にご相談ください」熊本市北区弓削を拠点に、子どもの言語発達・発音・学習の個別支援を行う「ことばの相談室インディー」を主宰する上野 和博(うえの かずひろ)さん。言語聴覚士として15年以上にわたり発達支援に携わり、2年前に独立。医師の紹介や診断なしで相談できる場所を作ることで、「困ったらすぐ動ける体制」を自らの手で実現しようとしています。上野 和博さんにインタビューしました!

中村

現在どのような活動をされているか教えてください。

上野さん

 熊本市北区弓削で「ことばの相談室インディー」を開いています。
土日は相談室でお子さんの言語発達・発音・学習の個別相談と支援を行っていて、平日は療育施設での訪問支援や、幼稚園・保育園・学校を回る訪問支援、放課後等デイサービスでの個別言語支援などをしています。

言語聴覚士(ST)の仕事というと高齢者の嚥下(飲み込み)支援のイメージが強いと思いますが、私は主に子どもの発達支援に特化しています。
お子さんの発音が気になる、ことばの発達がゆっくり、学習に困り感がある。そういったお子さんと保護者の方の相談に、医師の紹介や診断なしで対応できるようにしています。

中村

言語聴覚士を目指したきっかけを教えてください。

上野さん

もともとは数学の先生になりたかったんですが、数学以外の科目が苦手で(笑)、進学先を探していた時に地元の新聞で「言語聴覚士」という仕事の紹介記事を見つけました。
そこに補聴器の仕事が紹介されていて、祖父が補聴器を使っていたこともあり、「耳の聞こえづらい人に携わる仕事もいいかも」と感じて、宮崎県の養成校に入学しました。

独立のきっかけは、病院での電話相談窓口を担当していた経験です。子どもの発達支援を求める問い合わせが多く来るのに、待機があってすぐ対応できない。「発達支援は早ければ早いほどいい」という確信があったので、すぐ相談できて、すぐ動ける体制を自分で作ろうと思い、2年前に独立しました。

中村

これまでのキャリアを教えてください。

上野さん

養成校卒業後、大人も子どもも両方見られる環境を求めて熊本の病院に就職しました。16〜17年間、入院患者さんの嚥下支援を中心に、外来では子どもの発達支援も行いながらキャリアを積みました。

嚥下は命に直結する支援なので緊張感が高く、子どもの発達支援は将来に関わるという意味でまた別の緊張感がある。どちらもやりがいは大きかったですが、発達支援においては「もっと早く、もっと気軽に届けたい」という思いがどんどん強くなっていきました。

独立を決めた後押しになったのは、STの枠を超えた学びの場。
コミュニティや自己啓発的なセミナーへの参加です。「STのことだけ考えていたら独立もしていなかった」と感じていて、外の世界との接点が視野を大きく広げてくれました。

中村

仕事で大切にしていることを教えてください。

上野さん

一番大切にしているのは「様子を見ましょう、ではなくできることから始めましょう」という考え方です。

3歳児健診や5歳児健診で「ちょっと気になるけど様子を見ましょう」と言われているお子さんはとても多い。その言葉の背景には、紹介できる専門家が少ないという現実もあるんですが、その間にも子どもは成長していく。
1ヶ月・2ヶ月の差が大きく変わることもある。だから来ていただいたら、まず早く支援を始めるメリットをお伝えするようにしています。

また、人との縁を大切にすることも私の軸です。
病院時代に育てた関係性が今の活動を支えてくれていて、元同僚からのご紹介でつながってくださる方も多い。信頼の積み重ねが、必要な人のもとに届く力になっていると実感しています。

中村

独立にあたって大変だったことはありますか?

上野さん

自費でやるということへの周囲の懸念は大きかったです。
「病院や療育での支援は保険や社会保障制度で実質無料や低負担なのに、自費では来てもらえないんじゃない?」と言われることもありました。
でも私の中には、「それでも必要な方にはちゃんと届く」という確信があって。
むしろ自費だからこそ、待機なく、医師の紹介なしで、気軽に相談できるというメリットがある。病院の中だけにいたら気づけなかった視点で、コミュニティや外の学びの中で育った考え方だと思っています。

実際に始めてみると、元の職場の同僚からの紹介など、人の縁でつながってくださる方が多くいて、「やってよかった」と感じています。

中村

活動を通じてどんな社会を実現したいですか?

上野さん

「困ったらすぐ相談でき、すぐ支援が受けられる体制」を当たり前にしたいです。

日本では子どもの言語支援を担うSTがまだ少なく、アメリカでは子どもへのST支援が優先されているのとは対照的な状況があります。
医療機関が増えるでも、自費の相談室が増えるでも、行政との連携が進む。でも何かしらの形で「子どもを見るSTの割合が増える」ことで、困っているお子さんや保護者の方が「ここに相談すればいい」とすぐ動ける社会に近づいてほしい。

そしてもう一つ、STという職種自体をもっと多くの人に知ってもらいたい。
保護者の方同士の間で「STに相談した方がいいよ」「様子を見ない方がいいよ」という口コミが広がっていけば、それが一番の変化につながると思っています。

中村

これから挑戦したいことを教えてください。

上野さん

 すでに月1回の保護者向けセミナーをスタートしていて、これを継続・拡大していきたいです。
また、字を書くのが苦手なお子さんのために書道の先生とコラボするなど、STの枠を超えた多職種連携の支援もどんどん進めていきたいと思っています。

長期的には、学校にSTが常駐したり、行政と連携してSTが地域に入ったりという働き方が広がっていくといいなと思っています。子どもたちが小さい頃から自然にSTと関われる環境が当たり前になる社会を、少しずつ作っていきたいです。

中村

最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

上野さん

 保護者の方、保育園・幼稚園・学校の先生方へ。
お子さんのことばや発音、学習のことで「ちょっと気になるな」と感じることがあれば、様子を見る前にまず専門家に相談してみてください。相談することで何かが始まります。

健康に関わる仕事をされている皆さんにも伝えたいのですが、どの職種も「専門家に届く前の段階」で気づける立場にある。
その時に「ちょっとこういう専門家に相談してみませんか?」と一言伝えてもらえるだけで、子どもの未来が変わることがあります。
専門職同士がつながって、困っている人をすぐ次の一手につなげていける関係を、一緒に作っていけたら嬉しいです。

上野 和博さん、インタビューにお答えいただきありがとうございました!
, , ,
ホームページ
スポンサーリンク