インタビュー九州・沖縄医療看護

心不全は、治らない。だから”どう生きるか”を一緒に考える。医療と人生を繋ぐ訪問看護師の話。【訪問看護師 原口 菜緒】

インタビュー

この記事の見どころ

⭐️高校の授業でピンときた「これだ」。訪問看護師になるために逆算した人生

  • 親が教師だから教師かな、と思っていた高校生が、職業講話で訪問看護師の話を聞いてピンと来た。そこから大学病院、心不全専門資格取得まで、ゴールから逆算してキャリアを積み上げてきた。

⭐️  「ここは病院じゃないから」。重度の患者さんに言われた一言が価値観を変えた

  • 大学病院から訪問看護に転職直後、業務的なケアをしていた自分に患者さんが放った言葉。「今それじゃない」という気づきが、今の看護スタイルの根底にある。

⭐️ 心不全は今やがんより多い。でも知らない人がまだ多い

  •  2035年には75歳以上が人口の3分の1になる日本で、心不全患者は急増する。入退院を繰り返す原因の半分が生活習慣にあるという現実を、地域から変えようとしている。

⭐️ インスタのDMで「入りたいです」と送って入職。自分の軸で動く行動力

  • 心不全療養指導士の資格を活かしたいという思いから、インスタで見つけた訪問看護ステーションに自らDMを送って入職。資格名だけ持って活かせていなかった状況を自力で変えた。

⭐️ 「私のファンをいっぱい作りたい」。訪問看護と心不全を広めるPR担当看護師

  • 看護業務だけでなく広報担当として地域講話・オンラインセミナー・学会発表まで担当。「医療と人生をつなぎ、”自分で選べる状態”をつくる」をテーマに、福岡・熊本から全国へ発信を続けている。

Interview

福岡・熊本を拠点に訪問看護師として働きながら、広報担当として地域住民向けの健康講話やケアマネージャー向けのセミナー、学会発表まで幅広く活動する原口 菜緒(はらぐち なお)さん。心不全療養指導士の資格を持ち、「医療と人生をつなぎ、”自分で選べる状態”をつくる」をテーマに発信を続けています。訪看立ち上げ・PR広報から医療×人生×働き方まで、一歩踏み出すきっかけを届ける存在として活動する原口さん。高校の授業で出会った訪問看護師の話に「これだ」とピンと来てから、ゴールを決めて逆算してきたキャリアの軌跡と、心不全医療への熱い想いを聞きました。原口 菜緒さんにインタビューしました!

中村

現在どのような活動をされているか教えてください。

原口さん

メインは熊本の訪問看護ステーションでの訪問看護師の仕事です。
現場で訪問業務をしながら、広報担当として地域住民の方向けの健康講話や、ケアマネージャーさん向けのセミナー、学会発表などもしています。
うちのステーションは循環器、特に心不全に特化した訪問看護ステーションなので、私自身も心不全療養指導士という資格を活かしながら、好きなことをやらせてもらっています。
病院ではできなかったことが今の環境でできている感じです。

中村

訪問看護師を目指したきっかけを教えてください。

原口さん

 高校の時に、いろんな職業の方が来てお話してくれる授業があって、その時に訪問看護師さんが来ていたのです。
話を聞いた瞬間に、「あ、もうこれだ。私がするのこれ」ってピンと来てそれまで親が教師だから教師かなぐらいにしか考えてなかったのに、初めて自分で「なる」と決めた瞬間でした。

訪問看護は一人でお宅に行くから、知識も技術もアセスメントも臨機応変さも必要。
だからまず大学病院で力をつけてから訪問に行こうと逆算して、大学病院に入って、心不全療養指導士も取って、今の会社にたどり着いたという形です。

中村

今の職場への入職もユニークな経緯だったとか?

原口さん

そうなんです(笑)。
インスタで今のステーションを見つけて、DMで「入りたいです」って送って入りました。循環器・心不全に強みを持っているところで、自分の資格を活かしてやりたいことができると思ったので。

中村

これまでのキャリアを教えてください。

原口さん

大学病院の心臓血管・呼吸器外科病棟に7年いました。心臓移植前の患者さんに補助人工心臓をつけるような、かなり高度な医療の現場でした。そこで先生から心不全療養指導士を勧められて取得したんですが、大学病院では資格の名前だけ使っている感じで、本当に活かせているとは言えなかったんです。

訪問看護師になりたいという気持ちはずっと持ち続けていて、「今のうちに勉強して動かないと」と思ったタイミングで、今の職場を見つけて飛び込みました。

中村

仕事で大切にしていることを教えてください。

原口さん

「治す・直す」はこちらのエゴだと思っています。
患者さんにとって訪問看護は生活の一部であって、病気と付き合いながらどう暮らしていくかをサポートするのが私たちの役割。だから、その人が大切にしたい想いや価値観、どう生きたいかを引き出して、その生活をサポートするにはどうできるかを一緒に考えることを大切にしています。
お家はパーソナルスペースですし、病院みたいに「来てくれてありがとう」という関係ではなく、ある意味お互いの契約関係。だからこそ、その人の性格や生活習慣、一人ひとりに合わせた関わり方が本当に大事になります。

中村

これまでで大きく価値観が変わった出来事はありますか?

原口さん

大学病院から訪問に来てすぐの頃、10代の全介助の患者さんのところへ行った時のことが今でも印象に残っています。病院にいた時の感覚のまま、時間内にケアをこなそうとか、情報収集しないととか、業務的に動いていたら、その子に「ここは病院じゃないから」と言われて。
グサッときましたね。確かに、と。その人はケアじゃなくて話を聞いてほしかったのに、私がいっぱい質問するから「今そんな気分じゃない」って。
訪問看護師になりたかった頃の気持ちを、7年間の病院生活で忘れていたんだと気づかされました。あの経験が今の自分の看護の土台になっています。

中村

活動を通じてどんな社会を作っていきたいですか?

原口さん

まず知ってほしいのが、心不全は今やがんよりも多い疾患だということです。2035年には75歳以上が人口の3分の1になると言われていて、それに伴って心不全患者はさらに急増します。でも「心不全」という言葉は知っていても、どんな病気かまだよく知らない方が多い。

心不全は入退院を繰り返す病気で、その原因の半分が生活習慣によるものと言われています。治る病気ではないからこそ、病気とどう折り合いをつけて生きていくかが大切。退院して元気になっても、生活が変わらなければまた入院してしまう。そこに関われるのが心不全療養指導士の強みだと思っています。
心不全の知識を広めながら、こういう専門職を増やして地域での体制を整えていけば、不要な入院も減り、最終的には医療費の削減にもつながると信じています。

中村

これから挑戦したいことを教えてください。

原口さん

今、医療機関と連携しながら、心不全の地域包括ケアの仕組みづくりに取り組んでいます。病院は病院、地域は地域で分断されていて、退院したら病院は何も知らない。そんな状況をつなぐ体制がまだ整っていないのが現状です。
熊本からそのロールモデルとなる仕組みをつくって、他の都道府県でも参考にしてもらえるような体制を実現したいと思っています。「医療と人生を繋ぐ訪問看護師」として、訪問看護と心不全、両方の認知をもっと広げていきたいです。

中村

最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

原口さん

心不全という病気、まだよく知らないという方も多いと思います。でも、これからの日本でどんどん増えていく病気です。自分の家族や身近な人に「なんか息が切れる」「足がむくむ」という方がいたら、ぜひ思い出してほしい。

そして、
もし心不全のことで困ったとき、「あ、こういう人がいたな」と頭の片隅に残っていてくれたら、それだけで嬉しいです。訪問看護も、まだまだ知られていない世界。患者さんの生活に入り込んで、その人の人生と一緒に向き合えるこの仕事の魅力を、これからもどんどん発信していきます。
私のファンをいっぱい作ります(笑)!
一緒に心不全と訪問看護の輪を広げていける方と、ぜひつながれたら嬉しいです。

原口 菜緒さん、インタビューにお答えいただきありがとうございました!
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