この記事の見どころ
⭐️幼馴染の死が、消防士という道を選ばせた
- 大学3年生のとき、幼馴染を交通事故で突然失った。「あの場にいれば何か変わっていたかもしれない」。その思いが、消防士として救急に関わる道へと背中を押した。就職氷河期で倍率60倍という狭き門を、3ヶ月間猛勉強で突破した。
⭐️ 人は意外と死なない。でも、簡単に死ぬ」
- 長年の現場経験から得た、重くリアルな実感。数秒の判断や処置のスピードが生死を分けることもある。その現実を運任せにしないために、日頃の準備と判断力を磨き続けている。
⭐️ 防げる死を、現場で何度も目の当たりにしてきた
- シートベルト未着用など、事前に防げたはずの事故を繰り返し目にしてきた。「現場に着いてからでは限界がある」。その痛烈な経験が、予防教育への強い意志につながっている。
⭐️ 年間2000人の子どもたちへ「命の授業」を届ける
- 学校での出前授業を通じ、熱中症や事故の予防を子どもたちに伝える活動を展開。1回の授業で250人に届けることもあり、現場を知る消防士だからこそ響く言葉で命の大切さを伝えている。保育士資格も取得し、より幅広い年齢層へのアプローチも可能にした。
⭐️ 「全国の小中学校で命の授業を当たり前に」
- 一人では限界を感じ、仲間の消防士にも声をかけてチームで活動を拡大中。最終的には全国どの地域でも、子どもたちが命の守り方を学べる環境をつくることを目指している。
Interview
「助けること」には限界がある。そう語るのは、救急の最前線で働き続ける現役消防士の中村匠吾さんです。大学時代に幼馴染を交通事故で亡くした経験をきっかけに消防士の道へ進み、現場で数えきれないほどの命と向き合ってきました。そこで感じたのは、「防げることを事前にやっていれば」という後悔の声の多さ。その現実が、子どもたちへの命の授業という新たな活動へと中村さんを突き動かしています。中村さんにインタビューしました!

現在どのような活動をされているか教えてください。

現役の消防士として救急の現場に出ながら、学校で命の授業をさせてもらっています。
熱中症や事故の予防について子どもたちに伝える活動で、去年は合計で2000人くらいに届けることができました。
1回の授業で250人に話すこともあって、現場を経験している人間だからこそ伝えられることがあると思って続けています。

消防士を目指したきっかけを教えてください。

経済学部に通っていて、当時は銀行員や営業職など、一般企業への就職をぼんやり考えていました。正直、これといってやりたいことが明確にあったわけではなかったですね。
そんな中で、大学3年生のときに幼馴染の女の子を交通事故で亡くしました。すごくショックで、すぐ地元に帰って対面したんですけど、現実を受け入れられなかったですね。
そのときに、「もし自分がその現場にいたら、何か変わっていたんじゃないか」と思ったんです。
今振り返ると結果は変わらなかったかもしれないですけど、そのときの自分はそう思ってしまって。ちょうど将来を考えている時期でもあったので、消防士になって救急に関われば、救える命があるかもしれないと思い、この道を目指しました。

採用試験はどのように乗り越えましたか?

消防士を目指すと決めてから、採用試験に向けて本格的に勉強を始めました。3ヶ月間、毎日8〜10時間は取り組んでいましたね。
当時は就職氷河期で倍率も60倍くらいあったので、とにかくやるしかないという状況でした。体力ももちろん必要ですが、自分は大卒だったので、まずは筆記で結果を出すことに重点を置いて取り組みました。

仕事で大切にしていることを教えてください。

現場に出続けて感じているのは、「人は意外と死なない。でも、簡単に死ぬ」ということです。
大きな事故でも助かる人もいれば、「これくらいで?」というケースで亡くなる方もいる。本当に数秒の違いで結果が変わることもあって、その現実は何度経験しても慣れるものではないですね。
だからこそ思うのは、その数秒をどう埋めるかが自分たちの役割だということです。
現場に着くまでの判断、処置のスピード、ほんの小さな選択の積み重ねで、助かる確率は確実に変わる。運の要素ももちろんあります。ただ、それを運任せにしないために、日頃どれだけ準備できているかがすべてだと思っています。

これまでで印象に残っていることを教えてください。

一番強く感じるのは、「防げることをやっていないケース」です。例えば、子どもがシートベルトをしていないとか。事故が起きたあと、ほとんどの方が「やっておけばよかった」と言うんです。その言葉を、これまで何度も聞いてきました。
でも、それって本当は事故が起きる前にできたことなんですよね。現場に行ってからでは、正直できることには限界があります。
だからこそ、「防げることは事前にやってほしい」という思いは、すごく強いです。
また、若い方や本来まだ亡くなるべきではない方の死に立ち会うときはやはりきついです。小さい子どもがいる家庭だったりすると、残されたご家族の姿を見るのも本当に苦しい。
自分たちは仕事として現場に向き合っていますけど、その一つひとつに人生があって、家族がある。そこに立ち会う責任の重さは、ずっと感じ続けています。

活動を通じてどんな影響を与えたいですか?

現場を経験する中で、「助けること」にはどうしても限界があると感じるようになりました。
どれだけ急いでも、どれだけ最善を尽くしても、間に合わないケースがある。
だからこそ、「防ぐこと」の方が大事なんじゃないかと思うようになりました。
伝えたいのは、「自分の命は自分だけのものじゃない」ということです。
誰かが亡くなると、その周りの人がずっと引きずることになる。だからこそ、自分の行動ひとつで防げることは、ちゃんと大事にしてほしい。そのきっかけを少しでも作れたらいいなと思っています

これから挑戦したいことを教えてください。

今は、チームで活動を広げている段階です。自分一人ではどうしても限界があると感じて、他の消防士にも声をかけて一緒に取り組んでもらっています。
現場を知っている人間だからこそ伝えられることがあると思っていて、それを一人でも多くの人に届けていきたいですね。
最終的には、全国の小中学校で消防士が命の授業をするのが当たり前の状態をつくりたいと思っています。
どの地域でも、子どもたちが命の守り方を学べる環境を当たり前にしたい。それが実現できれば、救える命は確実に増えると思っています。

最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

健康じゃないと、本当に何もできないと思います。
救急の現場でたくさんの方を見てきましたけど、健康な人はやっぱり人生を楽しんでいるんですよね。逆に、生活習慣や知識不足で体を壊してしまっている方も多くいます。
だからこそ、自分の体を守るための知識は、しっかり持っていてほしいと思います。
特別なことじゃなくて、日々のちょっとした意識で防げることはたくさんあるので。自分の命を守ることは、周りの大切な人を守ることにもつながる。そのことを、少しでも意識してもらえたら嬉しいです。
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