インタビュー九州・沖縄医療

「今日が1番若い日」——新卒3ヶ月で脳腫瘍になった薬剤師の哲学

インタビュー

この記事の見どころ

⭐️新卒3ヶ月で緊急入院——24歳、脳腫瘍グレード4という現実

  • 就職して間もない頃から続いていた吐き気や頭痛、視界の歪み。年齢や仕事の疲れのせいだと思い込んでいたが、健康診断をきっかけに脳腫瘍が発覚し、新卒からわずか3ヶ月で緊急入院することになった。

⭐️変わらず寄り添ってくれたパートナーへ——抗がん剤治療の合間に決めたプロポーズ

  • 脱毛など見た目の変化があっても態度を変えずに接してくれたパートナーの存在が、畑中さんの大きな支えになった。抗がん剤治療の合間に、感謝の気持ちを込めてプロポーズを計画した。

⭐️独学で動画編集を習得——闘病体験を届けるための発信活動

  • より多くの人に自身の体験を届けたいという想いから、2023年頃からSNSでの発信を開始。最初は操作もままならなかった動画編集を独学で身につけ、今では映像制作チームを率いるまでになった。

⭐️レモネードスタンドとクラウドファンディングで広がる恩返しの輪

  • レモネードを販売して寄付につなげるチャリティ活動や、被災地支援のためのクラウドファンディングなど、自分にできることを探しながら行動を広げている。

⭐️「今日が1番若い日」——目指すのは偏見のない社会

  • がん治療が終わった後こそ、金銭的な負担や社会復帰の難しさに直面する人が多いという現実。当事者が病気についてオープンに話せる空気が広がることで、偏見のない社会をつくりたいと考えている。

Interview

「今日が1番若い日、なんですよね」——そう語るのは、新卒3ヶ月で脳腫瘍(悪性グレード4)が見つかり、闘病を経験した薬剤師の畑中聡一郎さんです。現在は「cancer.salon」というアカウントで、患者と薬剤師、両方の視点からがん治療や副作用、お金にまつわるリアルな情報を発信しています。手術や抗がん剤治療、そして重い感染症を乗り越えた経験から見えてきた景色と、これから挑戦したいことについてインタビューしました!

中村

薬剤師としての仕事とあわせて、現在はどんな活動をされているんですか?

畑中聡一郎さん

薬剤師として働きながら、自分の闘病体験をSNSで発信しています。Instagramでは「cancer.salon」というアカウント名で、がん治療や副作用、お金にまつわることを、患者と薬剤師、両方の視点から伝えるようにしています。

それ以外にも、医療や薬局関連のPRのお手伝いをしたり、医療の知識を活かして企業さんの動画制作のディレクションをしたりしています。薬剤師として治療や副作用について理解しているからこそ、健康や医療にまつわる動画の内容に説得力を持たせられるところが、自分の強みだと思っています。あとは、若い世代のがん患者さん向けのコミュニティをZoomで月に1回開いていて、交流の場を作っています。

チャリティ活動として、レモネードを販売して寄付につなげるレモネードスタンドもやっていますし、今は熊本地震の被災地支援を目的としたクラウドファンディングにも取り組んでいて、メッセージと一緒に支援を届けられたらと思っています。

中村

より多くの人へ情報を届けようと思われたきっかけを聞かせてください。

畑中聡一郎さん

元々、目の前で接する患者さんに自分の経験を伝えることはあったんですけど、それだと声を届けられる相手がどうしても限られてしまって。もっと多くの人に自分の体験を届けて、社会に還元したいなという思いが強くなって、2023年頃からSNSでの発信を始めました。

闘病中は看護師さんたちにもすごく支えてもらったので、元気になった姿を見てもらうことで恩返しがしたいという気持ちも、発信を続ける原動力のひとつになっています。

最初はインスタのリールを上げたことがきっかけで、それまでとは違う反応をもらえるようになって。それから、自分にできることは他にないかなと常に考えるようになって、PRのお手伝いや動画のディレクション、コミュニティ運営、レモネードスタンド、クラウドファンディングというふうに、少しずつ活動の幅が広がっていきました。

中村

薬剤師を目指した背景と、闘病生活で経験されたことを聞かせてください。

畑中聡一郎さん

薬剤師を目指したのは、中学と高校の時期に家族ががんの治療を経験していて、抗がん剤治療に関わる薬剤師の姿を見ていたことがきっかけです。

2020年に新卒で熊本の会社に就職したんですけど、実は大学5年生の頃から疲労感の強さは感じていて。就職して1ヶ月目ぐらいから吐き気があって、そのうち8時間寝ても取れないぐらいの疲労感が出てきたんです。朝のランニングやエナジードリンク、痛み止めでごまかしながら、仕事の疲れとか年齢のせいだろうと思って過ごしていました。

7月中旬の健康診断で気になる症状を相談したところ、眼科の受診を勧められて。精密検査で目の神経の奥から出血していることが分かって、脳の圧が高まっていることが発覚したんです。翌日には大学病院から連絡があって、新卒からおよそ3ヶ月で緊急入院することになりました。

入院してからは、脳の底に穴を開けて液を流す手術と、腫瘍の組織を調べる検査を受けたんですけど、その1ヶ月の間に細菌性髄膜炎という、致死率が高くてすごく痛みの強い感染症にかかってしまって。40度の熱と、ハンマーで殴られたような頭痛に2週間ぐらい苦しみました。

その後は、5日間連続で点滴をして23日間休むというサイクルの抗がん剤治療と放射線治療を、コロナ禍で面会も外出も制限されている中で受けていました。脱毛したりして見た目も変わったんですけど、当時のパートナーが変わらず接してくれたのがすごく嬉しくて。抗がん剤の2コース目が終わるタイミングの10月下旬に、熊本市内のレストランでプロポーズをしました。

退院してすぐフルタイムで働こうとした時は一度挫折してしまったんですけど、しばらくは時間を調整しながら薬剤師の仕事を続けて、目の前の患者さんと直接やり取りする中でやりがいを感じていました。そこから1年ぐらいかけて調整しながらフルタイム勤務に戻れることになって、そのタイミングでがん患者さんの多い病院に転職し、同時期に入籍もしました。

中村

闘病や病院での経験を通して、今大切にしている価値観は何ですか?

畑中聡一郎さん

病院でたくさんの患者さんと接する中で、命の尊さとか、明日また同じメンバーで集まれるとは限らないんだっていう現実を学んで。それから、1日1日を大切に生きようっていう価値観に変わりました。

発信していく上で大切にしているのは、自分の体験を隠さずに伝えることです。がん治療が終わったら終わりというわけじゃなくて、実は治療後の方が、金銭的な負担だったり社会復帰の難しさだったりで、しんどいと感じる人も多いんです。そういう現実を、もっと知ってもらいたいなと思っています。

あとは、患者としての経験と、薬剤師としての専門知識、その両方の視点を大事にしています。実際に治療を経験したからこそ分かる痛みや不安と、薬剤師として学んできた知識。その両方があるからこそ伝えられることがあると思っていて、どちらか片方だけじゃなく、両方の掛け合わせを大切にしています。

中村

発信活動を続ける中で、どんな課題や気づきがありましたか?

畑中聡一郎さん

動画編集は最初、操作を覚えるのにすごく時間がかかって、独学でゼロから習得していきました。それを途中で外注するという判断に変えたのが、自分の中で大きな分岐点になって。実際に手を動かすよりも、ディレクションとか指示出しみたいな、頭を使う仕事の方が自分に合っているって気づけたんです。

あとは、レモネードスタンドの活動を初めてやった時に、一人で全部抱え込みすぎてしまったなという反省があって。手続きやお金の管理みたいな部分は人に任せて、自分は外部とのやり取りとか、構想を練るところに集中する方がいいんだなということを学びました。

中村

活動を通して、これからどんな社会をつくっていきたいですか?

畑中聡一郎さん

自分の体験を、できるだけ多くの人に知ってもらいたいと思っています。がん治療が終わった後の方がしんどいという現実とか、副作用やお金の話とか、当事者じゃないと分からないことってたくさんあって。

YouTubeが広まっていったみたいに、病気のことをオープンに話せる人が増えていったら、当たり前の空気が変わっていくと思うんです。同じような経験をしている人が周りにたくさんいるって分かれば、偏見もなくなっていくし、理解も進んでいくんじゃないかなと思っています。

中村

今後、形にしていきたい支援について聞かせてください。

畑中聡一郎さん

今の仲間と一緒に、一般社団法人かNPOを立ち上げたいと思っています。がん患者さんが退院した後の就労支援だったり、パートで働き始めると傷病手当金がもらえなくなってしまうっていう制度の壁だったり。パートや時短勤務だと、それだけでは十分な収入を得るのが難しいことも多くて、そういう今の制度だと補いきれない部分を支える仕組みを作りたいんです。

あとは、今は無料でやっているピアサポート、がんを経験した人ががん患者さんの話を聞くという活動を、NPOという形にして、寄付などを通じてきちんと対価が発生する仕組みにできたらと思っています。

中村

最後に、読者の方へ伝えたいことをお願いします。

畑中聡一郎さん

がんになって初めて気づいたことなんですけど、毎日朝を迎えられることって、当たり前じゃなくてすごく素敵なことで、奇跡なんだなと思っています。

「今日が1番若い日」っていう考え方をすごく大事にしていて、1日1日を大切に、後悔のないように生きてほしいなと思います。

畑中聡一郎さん、インタビューにお答えいただきありがとうございました!

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