インタビュー九州・沖縄医療看護

カフェを持たないカフェオーナー。現役看護師が屋久島から宮崎へ、グリーンコーヒーで描く新しい働き方

インタビュー

この記事の見どころ

⭐️人口400人の屋久島の集落で育った少年が、看護師×コーヒー事業という異色のキャリアへ

  • 鹿児島県屋久島の小さな集落で生まれ育ち、地域全員参加の運動会や川での生き物採集など自然の中でのびのびと育った。将来は島に貢献したいという気持ちを持ちながら大学進学で宮崎へ。陸上の怪我をきっかけに医療への興味が芽生え、地域貢献ができる保健師・看護師の道を選んだ。

⭐️ 公務員2年目で入院、心と体の健康の大切さを痛感「この働き方を60歳まで続ける姿が想像できない」

  • 保健所の保健師として県内各地を統括するやりがいある仕事についたが、残業続き・土日も仕事・感情的な上司という環境の中で心身ともに消耗。社会人2年目に肺の先天的な病気とヘルニアで立て続けに入院を経験し、「健康でないと何もできない」と実感。以来、働きながら別の生き方・働き方を模索し始めた。

⭐️ 初期費用を抑えて誰でも始められる。グリーンコーヒー移動販売という選択肢

  • 通常のコーヒー移動販売は機材だけで100万円以上かかることもあるが、お湯や水に溶かすだけのパウダー型グリーンコーヒーなら道具・材料・許可申請費用を全部含めても約13万円で始められる。初めての出店でも「こんなに喜んでもらえるんだ」という手応えを感じ、自分で考えたメニューがお客さんに受け入れられる楽しさを実感。その経験が移動販売開業支援へと事業を広げる原動力になった。

⭐️ 障害を持つ方の就労支援にもつながるコーヒー事業。「ありがとうの循環」を事業の軸に

  • グリーンコーヒーの袋詰め作業を障害者就労支援事業所の方にお願いし、しっかりした対価をお支払いする形で連携している。関わるすべての人が喜べる形でなければ広げていく意味がない——そういう思いが、岩川さんの事業の根底にある。「ありがとうの循環を回せる形にする」という言葉が、飾りではなく活動のあちこちに滲み出ている。

⭐️ 選択肢を知らないだけで、視野が狭くなる。精神科看護師だから気づいたメッセージ

  • 精神科で働く中で、うつや心の不調を抱える方の多くが「選択肢が狭くなって行き詰まっている」と感じてきた。コーヒー事業・移動販売・間借りカフェという形を通じて「こんな働き方もあるんだ」と知ってもらうだけで気持ちが晴れる人がいると信じ、事業をするしないに関わらず多くの人に届けたいと語る。

Interview

「カフェを持たないカフェオーナー」。そんな肩書きで活動するのが、宮崎市在住の現役看護師・岩川信治郎さんです。
屋久島の人口400人の小さな集落で育ち、保健師・看護師として地域医療に携わってきた岩川さんが、グリーンコーヒーの移動販売に踏み出したのは2020年のこと。「この働き方を60歳まで続ける姿が想像できない」という思いを抱えながら、働きながら情報収集を続けた9年間の末にたどり着いた一歩でした。現在は卸実績104件・試飲実績3万人を誇り、移動販売開業支援・障害者就労支援・間借りカフェの活用まで幅広く展開。「働き方革命・居場所革命・コーヒー革命」を掲げる岩川さんにインタビューしました!

中村

現在どのような活動をされているか教えてください。

岩川さん

宮崎市内の精神科病棟で看護師として勤務しながら、グリーンコーヒーというコーヒーを使ったカフェ事業をやっています。
移動販売や間借りカフェ、交流会の企画など、コーヒーを通じた新しい生き方・働き方を広める活動をしています。

グリーンコーヒーを卸す販売店さんへのサポートや、移動販売を始めたい方への開業支援、OEMでのオリジナルブランド作りなど、コーヒー事業の裾野を広げる取り組みも行っています。
月1〜2回は無料講座も開催していて、コーヒー事業に興味を持つ方との接点づくりをしています。

中村

看護師を目指したきっかけと、コーヒー事業を始めたきっかけを教えてください。

岩川さん

屋久島の小さな集落で生まれ育ちまして、将来は地元に戻って貢献したいという気持ちがずっとありました。陸上をやっていて最後の大会を怪我で走れなかったこともあって、理学療法士に興味を持ったのですが、家庭の事情もあって看護の道へ。保健師の資格も取れると知って、それで地域に貢献できるなと思い、看護大学に進学しました。

コーヒー事業を始めたきっかけは、新卒で働き始めた頃から「この働き方をずっと続けるイメージが湧かない」という思いがあって、働きながらずっと情報収集をしていたことです。
いろんな交流会やセミナーに参加する中で出会ったある経営者の方の考え方が刺さりまして。「商品やサービスとは誰かの困りごとを解決するもの、会社とはその問題解決を集団でやるもの、お金とはその対価である」という本質的な話で、ものすごくシンプルで腑に落ちたんですよね。
その方がプロデュースした企業塾でグリーンコーヒーと出会い、2020年に移動販売を始めました。

中村

これまでのキャリアを教えてください。

岩川さん

大学卒業後、最初は保健所の保健師として3年半ほど勤めました。市町村を統括したり、協議会の企画運営をするような大きな仕事で、やりがいはあったのですが、残業も多く土日も問わず仕事に行くような状態で、心身ともにきつい時期がありました。
その頃、肺の先天的な病気とヘルニアで立て続けに入院したこともあって、「健康でないと本当に何もできない」というのを痛感しました。

公務員として収入や立場は安定していましたが、この生き方・働き方を60歳まで続けるイメージが全然わかなくて。
新卒の頃からずっとそういうモヤモヤがあって、知り合いの紹介でデイサービスの看護師に転職しながら、働き方についての情報収集を並行して始めました。交流会やセミナーに手当たり次第参加して、今から9年前ぐらいからずっと動いていましたね。奨学金もあったので辞めるわけにいかない、でも今の働き方を続けるのも違う、だから働きながら探し続けるという選択をしてきました。その後、精神科の病棟看護師に転職して、今も現役で働きながらコーヒー事業を並行しています。

中村

事業を通じて大切にしていることを教えてください。

岩川さん

「ありがとうの循環」をしっかり回せる形で展開するということを、一番大切にしています。
加盟店さんも販売店さんもエンドユーザーのお客さんも、関わる全員がいい形でなければ、事業として広げていくことはできないと思っているので。
どういう方にどういう価格で売ればお役に立てるか、ということを常に考えながら試行錯誤しています。

また、コーヒーの袋詰め作業を障害者就労支援事業所の方にお願いしていて、しっかりした対価をお支払いするブランドとして運営しています。就労支援の現場で働く方たちにきちんと還元できる仕組みにしたいという思いからです。

中村

これまでで特に大変だったことを教えてください。

いわ

グリーンコーヒーって、まだまだ知られていないんですよね。最初、飲食店に卸すことを中心にやっていたんですが、いろんなメニューがある中のうちのコーヒーなので、なかなか仕入れてもらえなくて。説明できる人がいないと全く売れないという現実にぶつかりました。
見た目だけだと「高い」と思われてしまうことも多くて。
でも実際に飲んでもらうと「おいしい」「オーガニックで嬉しい」と喜んでもらえる。その価値をどうやって伝えるかというのが一番の課題で、今もまだ試行錯誤の途中です。

中村

活動を通じてどんな社会をつくっていきたいですか?

岩川さん

精神科で働いていると、心の不調を抱えた方が「もう選択肢がない」という状態になっていることをよく目にします。
うつになると視野が狭くなって、追い詰められてしまう。でもそれって、選択肢を知らないだけという場合も多いと思うんです。

「こんな働き方をしている人がいるんだ」と知るだけで、気持ちが晴れることがある。コーヒー事業をやるかどうかに関わらず、「こういう生き方もあるよ」ということを多くの人に届けたいと思っています。
「カフェをやりたい」という夢を持ちながらも、ハードルが高くて踏み出せない方もたくさんいます。そういう方の背中を少し押せる存在でいたいというのが、今の活動の根っこにある気持ちです。

中村

これから挑戦したいことを教えてください。

岩川さん

 今は「加盟店制度」を作っているところです。私一人で卸しを広げるには限界があるので、ノウハウを全部お教えした加盟店さんがそれぞれ卸しを広げていただける仕組みを作ることが直近の目標です。
今後は看護師の仕事を辞めても事業だけでやっていけるくらいの規模にしたいという気持ちがあります。
また、もともと地元の屋久島に貢献したいという思いがずっとあるので、フットワーク軽くいろんな地域を動きながら、つながりを広げていきたいですね。将来的には全国・海外にも広げていきたいと思っています。

中村

最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

岩川さん

 私自身、この選択肢を知らない中でずっと模索してきました。でも今こうやってコーヒーという全然違う分野で仕事をしていて、本当にいろんな方に喜んでいただけているし、横のつながりも増えて、楽しく健康に過ごせています。
看護師として心と体の健康に向き合いながら、コーヒーを通じて生き方や働き方の選択肢を広げる。
自分の中ではこの二つはずっとつながっています。精神科で選択肢が見えなくなって追い詰められている方を目にするたびに、「知らないだけで、世の中にはいろんな生き方がある」ということを伝え続けたいと思うんです。

事業をするしないに関わらず、この記事を読んでくださった方の心が少しでも軽くなれば嬉しいです。

岩川 信治郎さん、インタビューにお答えいただきありがとうございました!
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